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有島武郎 日記

明治三十二年六月十四日
 Nature は最も良き吾人の師友なり。Byron の、吾れ人を愛するの少きに
あらず nature を愛するの多きなりと云えるもの、実に万世の至言にあらず
や。余は人に於て一端の模範を捉え得べし。されども nature は万端の模範
を供するものにあらずや。噫、余常に此 nature に親炙するの権を有し、之れ
より凡てを聞くの能を有して、而かも一老者の死に斯の如く筆を費すとせば
矛盾にあらざらんや。「死者をして死を葬らしめよ」、余亦之れを知れり。され
ども死児は顔好きもの多し。吾人は天を望む時群星より眼を退けて、嘆嗟を
以て忽如として消え行く流星に心を注ぐなきか。噫、余の筆を此に費す所以な
り。
明治三十二年六月十四日

 七月七日。汝は人に対して傲慢ならずとて、自ら慢り得るか。神に対する
無上の傲慢を如何にせんとする。嗚呼、眼を挙げて天地の至大を見、日月
の燦然として懸かり雲虹の蕩然として逝くを望む。人類の為せし事業、為し
得る事業は果して何ぞ。汝は何の故を以て自ら独立するを得るか。其智識
を以てか。憐むべし、汝の智識は遂に三次の質問を明瞭に答うる能はざる
なり。*(温泉)*
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